役員への贈与・低額譲渡は時価課税?消費税のみなし取引のポイント整理

課税標準の基本的な考え方
消費税の計算では、原則として「課税取引の対価として実際に受け取った金額」が課税標準になります。
しかし、現実の取引には無償で資産を渡すケースや、時価から大きく外れた価格で取引するケースも存在します。これらの場合、消費税の公平性を保つため、実際の受取額ではなく時価相当額を基準に課税する仕組みが設けられています。
時価によるみなし課税が発生するケース
みなし課税が適用される典型例として、以下のようなものがあります。
- 個人事業者による自家消費
- 法人が役員へ資産を無償で渡す場合(贈与)
- 法人が資産を役員へ著しく低い価額で譲渡する場合
これらは「実際の対価では課税の公平性が保てない」と判断され、時価相当額で課税標準を算定します。
法人が役員へ資産を贈与する場合の取り扱い
法人が役員に課税資産を贈与すると、無償であっても課税取引とみなされ、贈与時点の時価を基準に消費税が計算されます。
ただし、対象資産が棚卸資産の場合には例外があります。
申告時に次の金額を「対価」として計上していれば、その金額を課税標準として扱うことが認められます。
- 仕入価額以上
- 通常販売価額のおおむね50%以上
この条件を満たすことで、時価ではなく設定した金額で課税される点が特徴です。
著しく低い価額での譲渡と判断される基準
法人が役員に対して低額で資産を売却した場合、その価格が時価の50%未満かどうかが判断基準になります。
50%未満と判定された場合は、実際の受取金額ではなく資産の時価に基づいて課税されます。
棚卸資産に関しては以下を満たせば「著しく低い価額」には該当しません。
- 譲渡価額が仕入価額以上
- かつ通常販売価額の50%以上
この場合は、低額譲渡であっても実際の対価で課税されます。
実際の対価で課税が認められるケース
低額譲渡であっても、次のような合理的なルールに基づく割引であれば、時価ではなく実際の販売価格により課税されます。
- 社員と役員を含む全体に共通した値引きルールがある
- 勤続年数など、客観的な基準に基づく割引制度がある
個別の役員だけが特別に優遇されている取引ではないことがポイントです。
個人事業者における扱い
個人事業者は、自分自身に対して有償で資産を譲渡することはできません。そのため「低額譲渡」という概念は生じず、みなし課税の対象となるのは自家消費のみです。
まとめ
- 消費税は原則「実際の対価」が課税標準だが、例外的に時価を用いる場合がある。
- 役員への贈与や時価の50%未満での譲渡は「みなし課税」の対象となる。
- 棚卸資産では、仕入価額+通常販売価額の50%以上なら実際の金額でOK。
- 全従業員に共通する合理的な割引制度がある場合は、時価ではなく実際の対価で課税。
- 個人事業者は自家消費のみがみなし課税の対象で、低額譲渡は発生しない。
この記事は2023年9月に書かれたものです。
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